去る2022年9月25日、豊岡演劇祭最終日に上演された「但東さいさい」を観劇してきた。
「但東さいさい」は、京都を拠点に現代演劇を創作・上演する劇団である烏丸ストロークロックが、兵庫県豊岡市但東地域の子どもたちとともに、但東の民話や風景から創り上げた芝居神楽である。
演劇祭に参加しているほかの劇団や作品のことはよく知らないが、この劇団の大きな特徴として、作品のモチーフとなる土地にリサーチに入り、長い時間をかけて土地の方々の言葉を拾い、ワークショップを通して土地の方々と一緒に作品を創作していくというスタイルが挙げられる。
そして今回の「但東さいさい」も、持ち込み作品ではなく、劇団と土地の方々の交流の中から生まれた作品であることが大きな特徴であり、大きな意味を持つものと言える。
豊岡市の東端、京都府に囲まれるように位置する但東地域は、高橋(たかはし)地区、合橋(あいはし)地区、資母(しぼ)地区の3地区に分かれており、演劇祭期間中、同作品が各地区の神社で1回ずつ上演され、僕は資母地区で観劇した。
今は使われなくなった農村舞台を囲い、地元の方々と一緒に観劇したこともあってか、僕はこの作品に、がっしりと根を張り土地を見守り続けてきた御神木のような力強さを感じた。それは、まさに演劇が土地に根を下ろす瞬間を目撃しているような体験だった。
■『但東さいさい』上演レポート(烏丸ストロークロック公式サイトより)
実は、この「但東さいさい」にまつわる2つの記録映像が、2022年2月1日~28日にかけて、期間限定で公開されていた。
一つは、足立原円香さんが制作した「但東さいさい本日開演」。こちらは、2022年9月の豊岡演劇祭で上演された「但東さいさい」の記録映像であるが、3幕からなる公演の記録と並行して、地域の概要や美しい風景、そして劇団と子どもたちとの交流や地域の方々との準備の様子といったエピソードが合間に挟まれ、色彩豊かで生き生きとした素晴らしい作品になっている。
そしてもう一つが、僕が制作した「烏丸ストロークロックと子どもたち」。こちらは、2022年3月に地元のホールで行われた「但東さいさい」の中間発表会までのワークショップ過程を記録した作品で、まだ地域との関係も手探りの中、試行錯誤しながら子どもたちと向き合う劇団の姿を描いた作品になっている。
■「但東さいさい」記録映像2作品配信ページ(今後も期間限定で公開される可能性があります)
僕はご縁があって、烏丸さんの但東での取り組みに約2年間関わらせていただいたのだが、烏丸さんの、丁寧なリサーチを重ね、地域にとって望ましいことは何なのかを考えながら、地域の人びとと一緒に作品を作っていくというスタイルからは多くのことを学ばせていただいた。
作り手の側にやりたいことや伝えたいものが先にあって、それを具現化するためにその土地やそこに生きている人びとやワークショップの時間があるのではなく、地域の人びとがより良く生きることを模索するための一つのきっかけとして表現(あるいは外部の存在)があり、互いの関係性の変化や現実との対話のプロセスから作品が生まれていく。
こうした「作り手ファースト」ではない表現のあり方や可能性について、僕は映像を通して常々考えているつもりではあったものの、烏丸さんからは、その豊かで幸福な形の一つのあり方を間近で見させていただくことになった。
「但東さいさい」に参加した子どもたちも、学校も違えばいろんな子がいる。記録映像の中でも描いている通り、当然、烏丸さんたちにもコントロールの効かないところはたくさん出てくる。
それでも、それを受け入れて楽しみながら、同じ時間を共有する中で見えてきた一人一人の「その子らしさ」を演出する側が信じ、子どもたちもお互いの役割を信頼し合い、いざ本番では本当に素晴らしい舞台がそこに生まれたと思う。この、どうなるか分からない一回性の時間進行と「信じる力」に、ドキュメンタリーとはまた違った演劇ならではの魅力を改めて感じたと同時に、自身の表現や生き方に対しても大きな刺激を受けることになった。
これだけの作品を作るにあたっては、地域や保護者の方々との調整など、大変なこともたくさんあったと思う。
地域の複雑な文脈の中で、子どもからお年寄りまで、あらゆる人と関わりながら制作を進めるということは、必ずしも価値観が合致する人ばかりと交流するわけではないという難しさもある。背景の異なる人同士があることをきっかけに出会うのだから、そこには当然分からないこともたくさんある。
しかし、全幅の理解や共感がなくても、人は協力し、助け合うということも往々にしてあるのである。
そのような関係は、地道に顔を合わせて、対話を重ねる中でしか生まれてこない。その過程で、関わる人たちが相互に影響を与え合い、変化し、生きることそのものが表現に結び付いていく。そこから新たな気付きや学びが生まれていく。
烏丸さんと但東の関わりを見させていただく中で、両者の間には表現やアートがともにより良く生きるための一つの方法としてしっかり息衝いているように僕には感じられた。
「但東さいさい」が今後どのように発展していくかは分からないが、関わった人間の一人として、これが故郷の大切な記憶の一部になることを願っている。
なお、「烏丸ストロークロックと子どもたち」については、2023年3月19日に開催されたみやぎシネマクラドルの第17回映像サロン「表現の豊かで幸福なあり方を考える~劇団・烏丸ストロークロックの取り組みから~」で上映させていただいたため、そのときのレポートを以下に引用する。
※レポートは代表である僕が毎回書いているため、今回も自分の発表なのに自分で書いています…。
※みやぎシネマクラドルについては以下をご参照ください。
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